人間をやめて人生を一(ぼう)に振ることにしました。

2018.05.17

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田辺 ひゃくいち(元人間)

コピーライターの田辺ひゃくいちです。

本日を最終出勤日として株式会社人間をはなれ、株式会社一(ぼう)をつくることにしました。コピーと企画を軸にして、東京に拠点を構えつつも、関西だとか関東だとか場所の区分けには囚われることなく活動できたらと思います。

くわしい経緯につきましては、こちらの記事会社に向かないから会社をつくることにした。をお読みいただければ嬉しいです。

人間でよかった。

さて、冬に1回のボーナスを年に2回へとわざわざ直前でルールを変更し、「なにかと大変だろうから」とわたしの最後の給料にあわせて支給してくれたから言うわけではありませんが、約10年で10職以上を流転してきたわたしにとっても、株式会社人間以上に面白くて変なことを考えている会社は見たことがありませんでした。良い意味でも、悪い意味でも。

とはいえ、どういうところが株式会社人間の魅力なのかというと難しいですし、ひとたび言葉にすればなんだか他人行儀で吐き気のするような雰囲気が漂ってしまいます。なので、わたしが実際にどんなものを人間でつくってきたのか特に強く印象に残っている案件を5つだけに絞ってご紹介させていただくことで、なにかしら伝わってくれたらいいなと思います。

(1)寝たきり銀幕デビュープロジェクト

介護業界のイメージをもっとポジティブに

http://ginmaku.mizuki-okayama.jp/

世界一の「寝たきり大国」とも称される日本で、深刻な社会問題となっている介護業界の人材不足。その要因のひとつとされる「介護業界に対するネガティブなイメージ」を払拭するプロジェクトを、社会福祉法人みずき会の採用企画として実施しました。

コンセプトには「高齢者は、往年のスターだ。」というコピーを据え、高齢者の方々は決して疎外されるような存在ではなく、今の若い世代が知らない時代を駆けぬけてきた輝かしき先人たちであると、言うまでもないことかもしれませんが改めて宣言しています。

その上で、「寝たきり」や「要介護」の状態にある老人ホームの入居者の方々からヒアンリングした思い出のエピソードをもとに、それぞれの人生にスポットライトを当てたオリジナルストーリーを考案し、ご本人たちを主役に据えたオリジナル映画のポスターを製作。銀幕デビューを華やかに飾る往年の映画スターになりきっていただきました。

手法としては、寝相アートならぬ「寝たきり」アート。ポスターに使用されている文言パネルも手づくりで、実際にみずき会の介護職員の方々がベッドの周りから支え、「介護職は、主役である入居者の人生を支える名脇役である」と表現しました。

プロジェクトのタイトルは「寝たきり銀幕デビュー」。「寝たきり」という言葉をあえて前面に押しだし、相反する華やかな「銀幕デビュー」という言葉とつないでいます。ともすればタブー視されて目を背けられてしまいがちな「介護」や「寝たきり」といった社会問題が抱えるイメージを根本から堂々と前向きに塗りかえたい。そんな「みずき会」の想いを込めました。

(2)PUBIC HAIR GROOVING

あの毛の波形で音楽をつくる世界初のプロジェクト

https://datumou-recipe.com/phg/

脱毛情報サイトのプロモーションとして、脱毛された陰毛を募って音楽をつくることで、アンダーヘアのお手入れ率が低いとされる日本の女性たちを「世界の股に」しようという余計なお世話すぎるコンテンツを製作しました。

企画を考えているときに「陰毛の波形って音になるんじゃないかな」と不意に思ったので、あまり深く考えずに呟いてみたら、あれよあれよという間に世界初っぽい音楽プロジェクトに。「こんなことやったらダメなんじゃないか」というところで思考を停止させることなくむしろ加速し、なんとかやってしまおうとするときの邪な勢いや諦めの悪さは、株式会社人間ならではの強みなのかもしれません。

タイトルは「Pubic Hair Grooming(アンダーヘアのお手入れ)」ならぬ「PUBIC HAIR GROOVING」とネーミング。かの「世界を股に」かけて活躍する「m-flo」の☆Taku Takahashi氏が楽曲制作に立ち上がり、胸どころか股にキュンとくるナンバー「IN MOTION(インモーション)」が完成しました。

(3)ご不在連絡票型年賀状

自社への関心の所在を確認する

https://2ngen.jp/blog/2017nenga/

毎年恒例、株式会社人間の年賀状企画。年始早々に不在票が届いたら、さぞかし嫌だろうな。そんな感謝の想いだけで呟いてみたシンプルなアイデアだったので、ここまで手の込んだ仕掛けになるとは思いもしませんでした。

どこかで見たことがあるような不在票に記された「我々への関心がちょっとご不在ではないかと感じました」とのメッセージで自社への関心の所在を確認し、受取人は記載された再配達受付の電話番号に掛けることで次の展開に進めるようになっています。

(4)元気ファクトリー ブランディング

飲食業界にあるまじき企業理念

http://www.genki-factory.com/

「焼肉どんどん」や「煮干しらーめん玉五郎」など、ライブ感満点なカウンターが主役の飲食ブランドを展開するフードカンパニー「元気ファクトリー」のコーポレートサイトリニューアルにともない、企業理念も刷新することに

経営陣にヒアリングするなかで多く聞かれた「飲食を通してオモロイことをしたい」とのメッセージを起点に、「食べもので遊ぶなどころか、むしろ食べもので遊ぶかのように」というコンセプトを考え、最終的に「たべものであそぼう。」という飲食業界にはあるまじきスローガンをひらがなでやわらかく書きました。

さすがに怒られるかなと、もっとやわらかい副案も用意しておいたのですが、より挑戦的なコピーを選んでいただけたのでホッとしました。

(5)アドテック関西2016

頭からソースを浴びる

関西圏最大の国際マーケティングカンファレンス「アドテック関西」のメインビジュアルを考えているときに、このタイプの巨大なシャワーヘッドとソースをダイレクトに連結させて頭から浴びさせてみたいという意味不明な衝動に駆られることに。

そこで、アドテック関西を「デジタルマーケティングの情報源(ソース)」と位置づけ、「ソースは関西。」というコピーを掲げました。ビジュアルには、ソース(情報源)を頭から浴びて全身で味わおうとのメッセージが込められているはずです。

アドテック関西にはメインビジュアルと連動したブースも出店しました。

その名も「ソ道」、即ち “ソース” の道。「関西秘伝のソース(情報源)を関西古来のソースで香ばしく書きあげる、古今東西の情報の源流たるアドテック関西ならではの芸道である」という謎のコンセプトではありますが、書道ならぬ「ソ道」というネーミングが浮かんだときに「これだ!」と思ってしまいました。

当初は、本物の書家(この日は「ソ家」)が自由に書きあげる設定だったのですが、急遽、コピーライターであるわたしが来場者の方のお話を聞いて、ソ家の先生が描くためのキャッチコピーを即興で考えるスタイルへ切りかえられることに。

わたしも最初こそ「コピーはそんなに簡単に書けるものじゃないんですよ」などとボヤいていたのですが、思いのほか盛況なことで調子に乗り、いつのまにか楽しんでしまいました。結果、イベント開催中に100本以上のコピーならぬ「ソピー」が生まれたのではないかと思います。

いちばん印象に残っているのは「LGBTへの理解をもっと面白く、大胆に広めたい」という会社の社長さんが口走ったフレーズを切りとった「女生まれ 女育ち 女好き」です。ちなみに、ホリエモン氏も遊びにきてくれました。

(おまけ)性知派

性に知を。知に性を。

http://seichiha.com/

株式会社人間の変質デザイナー・松尾聡との個人活動として、「性知派」というユニットを結成。「性に知を。知に性を。」というコンセプトのもと、手でシュッとしたいオトナのためのフリーティッシュペーパー『性刊 テッシュ』や、本物のプロの書家が書きあげた「あ」から「ん」までの五十音ではじまるアダルトな書『アダル書』などを制作しました。

新宿歌舞伎町の高級デリヘル店にお問い合わせフォームから突撃し、ウェブサイト上のバナー広告を実際につくらせてもらったのも今となっては芳しい思い出です。なお、下記リンク先のコンテンツの閲覧については責任を負いかねますのでご了承ください。

http://seichiha.com/archives/250

http://seichiha.com/archives/613

まとめ

なんだか最後の最後にひどい下ネタが続き、台無しになってしまったような気がして不安なのですが、とにかく株式会社人間じゃないとできないことばかりを思う存分に楽しませていただいた2年とすこしだったと思います。お世話になりました。そして、ありがとうございました。その他にどんなことをやってきたかについては、わたしの「ポートフォリオ」をご覧いただければ幸いです。

今後も株式会社人間とは仕事をしていくので、なにかあたらしいゆるさでつながる関係性を実験していければと考えています。もちろん、まだ一緒に仕事をしたことがない方たちとも楽しいことをしていきたいです。

光栄にも、大阪と東京のお客様からすでにいくつか案件をいただいており、しばらくは大阪と東京を行ったり来たりすることになると思いますが、まだまだ真昼間から焼酎を浴びられるくらいに時間が余っておりますので、ぜひ下記までお気軽にご連絡ください。いったん、6月上中旬に1週間ほど東京に滞在する予定でおります。

また、しばらくはオフィスがないので「うちのオフィスへ遊びにおいでよ」といった稀少な方がおられましたらお声がけいただけますと大変ありがたいです。

tanabe101@tadanobou.com
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それでは、これにて人間をやめて、人生を一(ぼう)に振ることにいたします。

これからも、ひとりの人間として、どうぞよろしくお願いいたします。