“失われた有給”を供養する、皮肉なまでに美しいイベント『有給浄化』

2020.01.10

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株式会社人間

どうも、人間のシャニカマです。
先日、人間主催で「有給浄化」というイベントを開催しました。

このイベントは、期限内に使えなかったり、転職前に消化しきれずに失効してしまった「失われた有給」を“灯籠”にして弔うイベントです。
イベント内では「わたし以外の家族旅行」「毎日が繁忙期」「自分の誕生日会欠席した」など数々の無念な有給のエピソードが灯籠になって展示され、その1つひとつをブラック企業出身僧侶が読み上げて供養しました。

一般公募で集まった全275もの「有給が使えなかった」という悲痛なエピソードが会場内に敷き詰められ“美しくも皮肉な景色”を作り出していました。
イベント前後では数多くのメディアさんに取り上げていただき、少し変わった形ではありますが『働き方改革』の一助となれたと自負しています。

ただ、この「有給浄化」というイベント、企画から開催まではとてつもない苦難の連続でした。
これを伝えないことには、我々の
休むまもなく有給と格闘し続けた日々が供養されない気がするので、この場を借りてご報告させてください。

「有給浄化」ができるまで。

最初はシャニカマの“思い付き”

人間は昨年「ブラック企業体験イベント THE BLACK HOLIDAY」というイベントを勤労感謝の日(11/23)に開催しました。

このイベントはその名の通り「ブラック企業対策にブラック企業を体験しよう」というもの。
そのインパクト満載な名前とコンセプトは一躍話題になり、地上波のTV取材のみならずドイツのTV局からも取材していただきました。

そんな風にして味をしめた人間は「毎年、勤労感謝の日に何かやろう!」と思い立ちます。ただ、有難いことにたくさんお仕事をいただいていた社内では、夏になっても具体的なアイデアがないままでした。

そんな中、新入りで仕事がなく暇でこの人間流『働き方改革』に専念できた人物がただ1人。この私でした。

(オフィスのタライで遊ぶぐらい暇でした)

しかし、いくつかアイデアを考えては社長2人に提案し続けるものの、一向にパッとするアイデアは出ません。計20個以上はボツをくらったでしょうか、もう半ば諦めかけていた時にネットで「有給が取れない」という書き込みを見つけます。
当時の私は言葉遊び先行で発想するダジャレ・ドリブンな企画の仕方しか知らなかったので、そこから「有給」をダジャレで連想させていきます。

その中で思い浮かんだダジャレが「有給消化」ならぬ「有給浄化」でした。

この言葉がひらめいた途端に

「浄化すべき有給」は『失効した有給』

使えなかった有給の数だけ灯籠を並べるのはどうか?

美しさと切なさが比例する

“皮肉なまでに美しい光景”が広がって面白い!

と、企画の原型が一瞬のうちに組み上がりました。

すぐさまペライチの企画書に落とし込み、その日のうちに提案。
これまでボツ続きだったので不安でしたが「これは面白い、やろう」と即決していただきました。


(当時の企画書)

当時はこれが過酷なイベントの幕開けだなんて、思いもしませんでした。

最初の難関「開催場所」

この企画に決まった時から、一番の難関は「場所選び」だと理解していました。

当初は「灯籠流し」にする予定だったのですが、河川でのイベントは国土交通省や警察からの許可が必要なためです。また、「私有地」に焦点を絞って場所を探しても、東京の商業施設や文化財にあるような池はなかなか予算的にも時期的にもハードルが高く、ほぼ丸1ヶ月以上アタックして進捗はゼロでした。

そこで社内では「灯籠流し」ではなく「灯籠イベント」にして、陸上で展示するイベントに切り替えることにしました。
また、ロケーションコーディネートの会社さんや、フリーランスでPR周りを手伝ってくれていた小田切さんにも協力してもらい、人海戦術で開催地を探しました。

そして見つかったのが、東京のオフィス街ど真ん中にある『東京サンケイビル』です。
東京駅から徒歩圏内にあり、四方を高層ビルに囲まれた絶好のロケーション。

また、奇跡的に東京サンケイビルさんで11/22、23の両日が空いていたこともあり、雨天も考慮して2日間使わせていただくことになりました。

ブラック企業出身の僧侶、佐山上人との出会い

今回のイベントでは「供養する」ということを目的に据えているので「僧侶」の存在が欠かせません。

そこで人間と付き合いの深い煩悩クリエイターこと浄土宗・稲田ズイキさんにお話を伺う「会うたびにサラリーマン時代のブラック話を聞かせてくれる僧侶はいますよ」という回答をいただき、すぐさまその方へ企画書をお送っていただきました。

そして数日後、稲田さんの下に届いた返事はこのようなものです。

「きちんとした法要の中で「有給消化心経」とともに、「表白」を作成し、読み上げた方が良いのではと思います。なんだったら、作成します。それと、有給を弔い、見直す中で、例えば六道の中の「修羅道」にいる方々に、浄化した有給を差し向ける(回向する)というのはいかがでしょう。」

感動的なまでに積極的な姿勢で、供養の方法や意義についての提案までしてくださっています。念のために言いますが、まだこの時点では企画書をお送りしただけに過ぎず、お会いしたことすらありません。

この方が、実際にイベントでも供養をお願いした西念寺の佐山上人です。

佐山さんとはその後Web会議を通して打ち合わせをさせていただいたのですが、このイベントに対する熱意もさることながら、ご自身のブラックエピソードも過酷極まりないものでした。中でも印象的だったのは「週休1日で10年働き続けた」「一生に一度の結婚休暇も返上した」「仏教の修行より過酷かもしれない」というお話です。

とても心強いパートナーを得たことにより、「有給浄化」は一気にオフィシャル感を増し、イベントとしても一段階深みのようなものが出てくるのでした。

複雑に入り組んだ企画を面白く伝えるプロ集団

今回のイベントでは一般公募で「有給が使えなかったエピソード」を集めて灯籠にすることになっていました。
そこで事前に周りの方々にエピソードを募集してみたのですが「有給が使えなかったエピソードって難しい」という声もちらほら。

無理はありません、今回は「有給を供養する」というコンセプトからして複雑ですし、「有給を使って楽しかったエピソード」ならまだしも「使えなかったエピソード」となると、事実として何もなかったことを思い出さねばなりません。

そのため、イベントのコンセプトから応募までの導線となるWebサイトにはとても気を使いました。
ここで伝えたいことを漏れなくダブりなく、誤解の無いように伝えなければなりません。

そこで今回は株式会社parksの久岡さんにコピーを、デザインをPARADISOの飯田さん、コーディングをAVACOMEの木戸さん(現在は人間の社員)にお願いしました。
山根さんディレクションの下、何度も試行錯誤して、とても素敵なサイトが完成しました。

結果的にこのサイトから沢山のエピソードが集まりました。

また、サイトと同様に“伝える”という意味で重要になったのはプレスリリースです。
こちらも、散々人間で変な企画を発信してきたPRのプロである株式会社まめの白井さんがとても分かりやすく、正しく意義が伝わるように、且つ面白いリリースに仕上げてくださいました。

その結果、なんとあの「ねとらぼ」を含め数多くのメディアが取り上げてくださり、Twitterでもかなり話題になりました。

“休み”を返上した「有給灯籠」の制作現場

エピソードが集まり、ついに275基もの「有給灯籠」を制作することに。
この灯籠たち、全て内製です。

灯籠型のダンボールを特注し、そのダンボールに社内で印刷したトレーシングペーパーを間違えることなく丁寧に1枚ずつ貼り合わせていきます。1基に4面なので、1100枚のトレーシングペーパーを貼ることになります。

制作は完全に人海戦術となるため、私を含めたアルバイト勢、そして社員の佐々木さん、社長の花岡さんたちが休日を返上して作業に当たりました。


(ライト300個に電池を入れる作業は地獄)

こうして予備も含めて全300基の灯籠が完成しました。
ちなみに「有給取得率向上のために休日出勤って本末転倒?」かと私も思ったのですが、有給は半年以上勤務した従業員に与えられるものであり、心配ご無用でした。

 

中止、延期、そして開催へ。

「勤労感謝の日」の開催は無念の“両日雨天中止”

これまで3ヶ月近い準備期間を経てようやく「あとは開催するのみ」という所まできました。

開催の1週間前、このイベントに暗雲が立ち込めます。
なんとイベント初日の11/22(金)が雨予報になっていたのです。

しかし、1週間前ですから天気も好転する可能性は十分にあります。そして、最悪の事態を考慮して2日間開催にしているのですから、翌23日に開催できれば問題ありません。

開催前日、降水確率は70%を超えていました。
それどころか、翌23日も30%となっており、かろうじて午後から雨が止むとの予報に。

「最悪の中の最悪」と呼ぶにふさわしい事態が一歩ずつ歩み寄ってくるようですが、天候に関してはどうすることもできません。とりあえず初日は絶望的だと思いつつも、当日判断ということでその日は解散しました。

 

11月22日、雨天により中止。

初日はまさかの雨天中止

しかし、翌23日は「くもり」という予報です
気持ちを切り替えて、可能な限りの準備だけを済ませてその日は宿へ戻ります。

 

11月23日、雨天により中止。

嘘みたいな話ですが、翌日も天候は大荒れ。
季節外れの台風による影響で「強風警報」まで出る始末でした。


(強風警報はダテじゃありませんでした)


(やるせなさをぶつける先もなく、ふて寝する一同)

このようにして、かくも呆気なくして「有給浄化」は両日雨天中止という最悪の結末を迎えたのでした。
しかし、ここで諦めるわけにはいきません。エピソードは集まっているのです、供養の勤めは「勤労感謝の日」という文脈がなくとも果たさねばなりません。

中止を決定してから2時間後、すぐに延期開催の段取りと計画が始まりました。(2時間はふて寝)
「とにかく12月初旬に大阪でやる」ということを決定事項にして、我々は使えなかったイベント会場の後片付けへと向かいました。

最後に記念撮影“だけ”をしたのが、この「有給大灯籠」の前です。
内部の設計から施工まで、佐々木さんがこだわり抜いてディレクションしてくださったこの大灯籠ですが、高さ2.5mの巨大な四角柱などさすがに大阪に持って帰るわけにいきませんでした。

大灯籠はこの後、綺麗に解体処分されていきました。合掌。

決死の延期開催 『有給浄化』大阪・冬の陣

涙を飲んだ東京開催から約2週間後、12月10日に『有給浄化』は大阪で延期開催されました。
大阪の難波駅からすぐにある「なんばスカイオ」のコンベンションホールという場所が運良く借りられたのです。

最初、山根さんと私で下見に行ったのですが、もうその時点で「これはイケる!」と確信した写真があります。それがコチラ。

そして、イベント当日。
最終的に「有給浄化」はこのような形に仕上がりました。

まさに皮肉なまでに美しい光景です。
数々の「休めなかった」という無念たちが立ち並び、恨み節を訴えかけてくるような姿は圧巻の一言。来場したお客さんも心当たりがあったのか、ハッとして手を合わせるような場面もありました。

また、佐山さんが275エピソードのタイトル(戒名)を、ほぼノンストップで読み切る「有給供養の儀式」も素晴らしいものでした。
「プロとしてどんなお葬式でも泣かないんですが、今日のイベントは今まで一番キツい(泣きそう)です」と仰られていたのが本当に嬉しく、佐山さんに頼んでよかったと心から思った瞬間でした。

そして、このイベントが終わってからも関西テレビの「報道ランナー」や、フジテレビの「とくダネ!」、毎日新聞の朝刊などマスメディアに取り上げていただいたことが嬉しかったです。

 

イベントを終えてみて。

「供養」はポジティブな行為だった

思い返すと、今回のイベントは私のくだらない「ダジャレ」からスタートしているわけですが、企画の内容を詰めていくにあたって段々と「このイベントは本当に意義がある」と思えるようになっていきました。

特に『供養』という行為に関するイメージが変わった気がします。前までは「慰める」とか「乗り越える」とか、マイナスをゼロにする行為というイメージが強かったのですが、今回のイベントを通して供養とは感謝と反省を通して次に進むポジティブな行為だと思えるようになったのです。

灯籠に書かれた「自分以外の家族旅行」「行けなかったのはラストライブだった」「親の死に目に会えなかった」という悲痛な叫びは、当事者でなくとも臨場感をもって無念を感じられます。
だからこそ「自分は休むことを疎かにしていた」と反省し、それと同時に「あの時の自分はよく頑張った」と感謝することで、「これからの人生を見つめ直そう」と次のステップへ進めるわけですね。

ダジャレから始まった企画にも関わらず、本当にいいイベントでした。

掲載実績

●テレビ
とくダネ!(フジテレビ) / 報道ランナー(カンテレ)

●新聞
毎日新聞

●ラジオ
JAPANTODAY / BLUE OCEAN

●Webメディア
トラベルwatch / ねとらぼ / レッツエンジョイ東京 / キャリコネニュース / 期間限定.com / grape / cnet / FNN / Skyrocket company / WorkMaster / TABI LABO / デジタル毎日 / 共同通信 / 産経ニュース / なんば経済新聞 / ITメディアビジネス / citrus / 日経ビジネス

●インターネット番組
けやきヒルズ(AbemaNEWS)

クレジット

Producer: 花岡(人間)
Creative Director: 山根シボル(人間)
Planner: 山根シボル(人間)、岡シャニカマ(人間)
Designer: 飯田美幸(PARADISO)、松尾聡(人間)、山根シボル
Copy writer: 久岡崇裕(parks)
Programmer: 木戸啓太(AVACOME)
Director: 岡シャニカマ(人間)
Photographer: 井上嘉和(井上写真事務所)
Cast: 佐山拓郎(浄土宗西念寺)
Set Production(大燈籠): 株式会社アートランド
Location Coordinate: 株式会社グルーヴ
PR Planner: 白井康太(まめ)、小田切萌
Special Thanks: 佐々木航大(人間)、武藤崇史(人間)、多田宙史(人間
)、藤原雅樹(人間)、西村美海(人間)、岡島彩乃(人間)、西畑将大、大沢隆之、中田けいすけ