聴覚障害者の実話をきっかけに生まれた聞こえないコンビニ『爆音コンビニ DEAF-MART』


公開日2020/12
担当企画 / コンセプト設計 / イベント設計・運営 / キャンペーン設計 / 映像制作 / グラフィック制作 / Web制作

「無関心層」を「関心層」に変えるエンターテイメント

新型コロナウイルスの感染拡大防止のため「マスクの着用」が新しい生活様式となる中、「口の動き」や「顔の表情」がわからないことが、聴覚障害のある人々にとって新たなコミュニケーションの壁になっています。そういった問題を当事者以外の人たちに知ってもらうために、2020年12月4日、東京都板橋区にて体験型イベント「爆音コンビニ DEAF-MART」を開催しました。

【背景】コロナ禍で発生した、聴覚障害者が感じるコミュニケーションの「壁」


今回、ご依頼いただいた「Silent Voice(サイレントボイス)」は、聴者のスタッフとDEAF(聞こえない・聞こえにくい人)の職員が1:1の割合で勤務し、DEAFの人たちが活躍できる場を増やすために活動するNPO法人です。
サイレントボイスの事業のひとつ、ろう・難聴児専門の総合学習塾「デフアカデミー」に通う生徒さんの中にも、マスクの普及により「話しかけられていることに気付けず、相手のことを無視しているかも」と悩み、孤立してしまった方がいました。

この問題の啓発のため、サイレントボイスは1万枚の透明マスクを無償配布するプロジェクト「Clear Mask Project(クリアマスクプロジェクト)」を企画されていました。

しかし本プロジェクトは、当事者やこの問題をすでに強く感じている方(関心層)にはご応募いただけるものの、この問題と出会うことのない多くの人々(無関心層)にはなかなか知ってもらえないという課題がありました。そこで、無関心層を振り向かせる面白い表現を生み出し「Clear Mask Project」を広く普及させるために、株式会社人間にプロモーションの依頼がありました。

【課題】聴者には気づきにくい「当たり前」の課題を啓発するために

まずは当事者の課題に共感し、リアリティを追求した企画を発案するため、国内だけでなく海外で生活する聴覚障害者の方にオンラインでヒアリングを行った結果、困るシチュエーションとして多く挙げられたのが「コンビニ」でした。

レジにはアクリルのシートが張られ、店員は全員マスクを着用。さらにレジ袋の有料化が始まり、レジでのやりとりが増えたことで、聴覚障害者にとってコンビニでの買い物が困難になりつつあります。

【解決策1】無関心層を関心層にかえるコンテンツ制作

リサーチの結果、障害の有無に限らず多くの方にとって身近な空間であり、困りごとがイメージしやすかった「コンビニ」を舞台に決定し、クラブのような大音量でBGMが鳴りひびくコンビニで買い物を行い、「声が聞こえない」環境下でのコミュニケーションを体験してもらえるイベント「爆音コンビニ DEAF-MART」を企画しました。

認知から体験までの課題への関心の変化

Webサイトのメインビジュアルでは今回の意義を明かさず、あくまでイベントを楽しみしていただくようにデザインしています。

開催当日は①ルール説明(爆音体験のルール説明、注意事項の確認)、②爆音体験(爆音の流れる店内での買いものを体験)、③振り返り(爆音体験で感じたことを共有し理解を深める)の順を追って、イベントが進行していきました。

①ルール説明


まず、爆音が鳴り響く店舗※に誘導された参加者たちに「MISSION CARD」が配布されます。参加者には、制限時間内にカードに記されたミッションをこなしながら、記載された表品を購入してもらいます。メインミッションのほかに、「コピー機の使い方がわからない」など、役者扮する店内のお客さんを助けなければいけない「サブミッション」も存在します。

※ 専門家による指導のもと「体験時間15分以内」「店内BGMの音量100dB未満」の基準に基づき、人体への影響を配慮して作成した音源を使用

②爆音体験


音が聞こえない状況での難易度が高い課題が続き、イベント会場では困惑する参加者が続出しました。参加者が行き詰った場面では、店員に扮した聴覚障害のあるスタッフが助けに入り、当事者ならではの解決方法を教えてくれます。
参加者への課題であるミッションは、企画決定後に人間の社員が聴覚障害者の方と一緒にコンビニへ買い物に行き、困りごとを聞きながらつくった課題です。

③振り返り


「耳が聞こえない」体験の時間だけでなく、体験のあとに参加者が集い爆音の中で感じたことを共有する時間をつくり、より聴覚障害への理解を深めるのが本イベントの狙いです。
参加者が配布された付箋に「困ったこと」「気づいたこと」などを書き、サイレントボイスのスタッフや聴覚障害者のスタッフと一緒に、爆音体験で感じたことを振り返ります。
「(声を使えないと)ボディーランゲージで伝えられることしか伝えられない」「店員さんが怒っている気がした」など、会話を禁止された場合に生まれる、普段の買い物における困りごとが次々挙げられていきました。

【解決策2】2社の強みを生かしたPR戦略の実施

本イベントでは関心層、無関心層、それぞれに向けてのPRを実施するため、すでに多くの当事者、有識者をフォロワーにもつサイレントボイスと、エンタメ系の情報発信を待つフォロワーの多い株式会社人間の、それぞれの強みを生かしたPR戦略を行いました。

サイレントボイスのステークホルダーに向けては、本イベントの社会的意義を強く発信しました。一方、人間のステークホルダーには、イベント自体の独自性を強く発信しました。コロナ禍で安全に楽しめる、どこにもないエンタメ性をもつイベントであることを発信することで、できるだけ聴覚障害者の抱える問題に触れることのない層(無関心層)に向けた発信を心がけました。

<2社の発信の違い>

サイレントボイス

1.現在コロナ禍のマスク着用が聴覚障害者のコミュニケーションの壁となっています。
2.この課題をより多くの人に知っていただくために「Clear Mask Project」を開始しました。
3.課題啓発のため「爆音コンビニ」というイベントを行います。

人間

1.爆音の流れるコンビニが都内に誕生!
2.1日限定で体験できます。
3.実はこのイベントの裏には聴覚障害者のこんな悩みがあります。

参加者の声

コンビニ店員役を務めた、聴覚障害のあるスタッフたち(写真左下、右上)

「聴覚障害の方が伝えようと必死なときに、こちらも察しようとすることが大切なのだと感じた。これまでは、ただ伝える側が頑張ればよいと思ってしまっていたが、コミュニケーションは双方向だということを改めて実感した」イベント終了後に寄せられた参加者のご感想どおり、「伝えたい側」の聴覚障害者の方々だけが伝えることを頑張っていても、コロナ禍における聴覚障害者にまつわるコミュニケーションの問題は解決しません。受け取る相手が受け取る努力をして初めて、コミュニケーションは成り立ちます。
今回の「爆音コンビニ DEAF-MART」は、障害のある方々にもスタッフとして多数ご協力いただき、障害の有無に関わらずスタッフ全員が楽しみながら開催できたイベントでした。

担当者インタビュー「”面白い”という価値を媒介して、伝えたいことがあった」

「爆音コンビニ DEAF-MART」の担当者だった、サイレントボイスの尾中友哉さんがインタビューに答えてくれました。

NPO法人Silent Voice 代表
尾中 友哉

平成元年生まれ、滋賀県大津市出身。聴覚障害者の両親を持つ耳の聞こえる子ども(CODA)として、手話を第一言語に育つ。ろう・難聴児向けの総合学習塾「デフアカデミー」、聴覚障害者の強みを生かしたコミュニケーション研修事業など、教育・就労という二大テーマについて「聴覚障害者と社会の関係性を変える」ビジネスを創出・展開。社会起業家として、ニュース番組のコメンテーターやビジネスコンテストの審査員を務めるなど、幅広く活動。

人間」は、最初どんな印象だった?

エネルギッシュな企画をたくさん生み出されていて、広告制作というよりはアートっぽい要素を強く感じました。その活動の源泉というか、どんな人が何のためにこんな活動をしているのだろうと思っていました。

なぜ「株式会社人間」に依頼したのか?

「面白い」という価値を媒介して、伝えたいことがあったからです。とくに私たちの伝えたいことの特徴として、人と人の情報交換が起きにくかったり、想像力が働きづらい内容を扱っている自覚がありました。そのため、人間さんであれば「面白い」ことによって新しい情報の動きをつくり出せると考えました。

「爆音コンビニ DEAF-MART」の反響はあった?

社内では、新しい伝え方や新しい活動を起こしていこうという機運を高められたと思っています。これまで、関心を持ってもらえなかったり、伝わらないから共通理解がつくれず諦めていた壁も、知恵を絞れば越えていけるという気づきで、非常に希望が持てると思います。
社外では、何よりも「爆音コンビニ」の広報施策であった「透明マスク配布」について目標の1万枚を達成したことに充実感を感じました。

印象に残った場面

お互いに使命感というか、熱いものを共有していた雰囲気を随所に感じました。「仕事」や「ビジネス」と割り切ることが巷に多くある中で、割り切れないような気持ちが良い方向に発揮されたという、稀有な仕事体験でした。それぞれが自分の持ち場において強い気持ちを持っているからこそだと思います。非常に良い役割分担ができましたし、正にプロフェッショナル集団だと感じました。

今回のボツ企画

今回の課題解決を企画するにあたり、ボツになった企画を抜粋してご紹介します。

「会話が読めない小説」 Idea by 則武枝里子


【ボツ理由】有力候補だったがインパクトに欠けるためボツ!

「透明がいい。」 Idea by 田辺ひゃくいち


【ボツ理由】インパクトはあるものの違和感が少なく、自分ごとにする「体験」にしたかったのでボツ!

掲載実績

●テレビ
テレビ朝日『スーパーJチャンネル』(2020/12/09)
CBCテレビ『チャント!』(2020/12/09)

●新聞
産経新聞
マスクで声が「見えない」現状知って 聴覚障害者支援のNPO

共同通信(中部経済新聞ほか)
マスク越しでも伝えたい 変わるコミュニケーション 「非言語情報」で意思疎通 聴覚障害者に学ぶ

朝日新聞GLOBE
店員に話が伝わらない BGMが超大音量の「爆音コンビニ」、仕掛けの裏にある深い意味

●Webメディア
BuzzFeed
「聞こえない人」の世界を体験しよう。クラブ並みの大音量が鳴り響く「爆音コンビニ」に行ってきた

日刊SPA!
世界一うるさい「爆音コンビニ」。誕生の裏には深い背景が

advanced
聴覚障がい者の実話をもとに生まれた、聞こえないを体験できる「爆音コンビニ DEAF-MART」が1日限定オープン

find good
マスク着用による聴覚障害者のコミュニケーションの難しさを体験できるイベント『爆音コンビニ DEAF-MART(デフマート)』12月4日、1日限定オープン!

JAPAN TODAY
Tokyo event aims to raise awareness of difficulties deaf people face during the pandemic

クレジット

Client: NPO法人Silent Voice
Creative Director: 山根シボル(人間)
Planner: 山根シボル(人間)
Art Director: 松尾聡(人間)
Copywriter: 田辺ひゃくいち(一)
Designer: 松尾聡(人間)
Web Engineer: 河本裕介(人間)
Director: 武藤崇史(人間)
Photographer: 木村華子、島田洋平
Movie director: 久保田天佑(RANdeVoO)、田村啓介(RANdeVoO)
sound crew:高山智浩(ディーサウンド)、大井 龍(ディーサウンド)
lighting operater:河本隆一
Cast: 有安 由香梨、上川拓郎、神山慎太郎、白石チカラ、中鶴間大陽、中村ひとみ、柳匡裕、山﨑俊太郎
conposer:おおたゆい(STEP)
Hair&Makeup artist: 山口裕子
Casting:劇団子供鉅人
Model: 黒部菜々佳、橋本亜美、牧原夢、川本晃夢
PR Planner: 白井康太(PmanR)
Assistant: 百瀬ガンジィ、涌井里菜
Producer: 花岡(人間)