藤原麻里菜の自画自賛 〜もしも無駄づくりのベストアルバムがあったら〜


株式会社人間では、2022年春、東京・渋谷にオープンしたイベントスペース「マイラボ渋谷」の立ち上げからイベントのプロデュースまで幅広く携わっているのですが、その中で「無駄づくり」を主な活動とする藤原麻里菜さんと一緒に「株式会社無駄 渋谷支展 – 無駄なおしごと体験 -」という展示イベントをつくらせていただきました。

そこで約4ヶ月間ほど「藤原麻里菜の魅力を皆に伝えるには……」と考え続けていたのですが、ふと「この人ヤバいんじゃないか」と思い立ち、会場の搬入作業の合間に緊急でインタビューをさせていただきました。詳しく話を聞いてわかったんですが、まるで違う言語かなと思うくらい「無駄」や「ヒマつぶし」などの言葉の意味合いが違うのです。

今回は、藤原さんの作品制作に対するこだわりを聞くため「『無駄づくり』のベストアルバムを作るとしたら?」という少し変わったテーマでインタビューをしてみました。

マイラボ渋谷の会場からお送りします

藤原麻里菜(ふじわらまりな)
株式会社無駄
1993年生まれ。コンテンツクリエイター、文筆家。頭の中に浮かんだ不必要な物を何とか作り上げる「無駄づくり」を主な活動とし、YouTubeを中心にコンテンツを広げている。2013年からYouTubeチャンネル「無駄づくり」を開始。現在に至るまで200個以上の不必要なものを作る。2018年、国外での初個展「無用發明展- 無中生有的沒有用部屋in台北」を開催。25,000人以上の来場者を記録した。「総務省 異能vation 破壊的な挑戦者部門 2019年度」採択。Forbes Japan「世界を変える30歳未満の30人」 2021年入選。

「無駄づくり」のベストアルバムをつくろう

── 「無駄づくり」って来年で10周年ですよね。僕が藤原さんをすごいなって思っているのが、200作品以上作り続けても制作のペースが変わらないところです。僕らも変な作品やってるんでわかるんですけど「他人から評価される自分」と「本当にやりたいことをする自分」と向き合う大変な10年間だったと思います。
今回、ベストアルバムを作ろうっていうテーマを設けたのは、これから初めて藤原さんに興味を持った人にこの凄さを最短距離で知ってもらいたいなと思ったからです。

早速なんですが、まず1曲目を選ぶとしたら何にしますか?

藤原:
なんだろう……「3ヶ国語でキレるルンバ」ですかね。

#1 3ヶ国語でキレるルンバ

藤原:
ルンバの従順さとヤンキーをかけ合わせたんですけど、わかりやすいですし、Twitterでの反響も大きかったですね。自分がつくりたいなと思ったワクワク感をそのまま作ってツイートしたらみんなも「面白いじゃん」みたいな感じで連動してくれたのが嬉しかったんです。

── やっぱり、ウケとか大事なんですね。バズを狙ったりすることは考えてますか?

藤原:
それは無いですね。バズってるからどうとか、バズってないから良くないとは思ってないです。みんなにわかりやすくとかは考えますけど、自分が気持ち良くて、みんなも面白がってくれたらそれが一番いいです。

#2 会社の机に置くための観葉植物を作りました

藤原:
次はこれですね「会社の机に置くための観葉植物を作りました」。この作品は、単純に「自分がコレを思いついてよかったなぁ」と思えるところと、実際に人に動画を見せた時に笑ってもらえる確率が高いんですよ。

── ちょっと待って!ミドルフィンガーマシーンって、そっちがタイトルなんですか!?

藤原:
はい、私あんまりタイトル付けない……タイトルって伝わりづらいじゃないですか。
作った理由は言えるんだけど、タイトルは付けられないんです。

── なるほど……(確かに他の作品も説明してるだけか、説明に「マシーン」をつけただけだ……)

#3 オンライン飲み会から緊急脱出できるマシーン

藤原:
これってTwitterですっごくバズったんですけど、この作品って玄人向けっていうか、この問題って分かる人だけがわかるやつじゃないですか。

── そういえば、今回の仕事の中でも話題に上がったけど「無駄」と言いつつ、何かの問題を解決したいっていう想いをお持ちですよね?

藤原:
アイデアって「問題」と「解決」でしか成り立たないと思っていて、その解決方法に自分の面白い部分が出せるので…… この作品ってその「自分なりに考えて出した答え」みたいなところがある。

#4 ゴミプラモ

藤原:
これは、私が個人的に作ってるのを見てくれたプラモデルの会社が作ってくれたんですけど、なんか“虚無”なところが好きですね。作ったとしても“無”なんです。

#5 ビニール袋が風に舞う風景を卓上で楽しめるデバイス

藤原:
ビニール袋が風に舞うあの場面が好きで、なにかそれを卓上で表現できないかなっていう。好きなものをそのまま形にした感じです。

── 思いついたらそのままって感じですけど、もしかして作るのかなり早いですか?

藤原:
そうですね。思いついたらすぐに形にできるように、3Dプリンターとかレーザーカッターとか、ちゃんと設備を整えてます。

── 今ってそのためにアトリエも借りてますもんね。ちょっと話それますけどアトリエに行く理由に「寂しいから」とかはありますか?

藤原:
それは無いですね。誰かとチームを組んで作るっていうのが苦手なんで、一人で作るのが一番気が楽でたのしいなと。

#6 グフ肩パッド

藤原:
私、すごい“なで肩”で。なんか肩に角生やしたいなと思った時に「グフ」を見かけて「もうグフの肩パッドすごい最強じゃん」って思った。

── これも、一応問題解決にはなってたんですね。

#7 服をビチャビチャにするスプーン

藤原:
これも問題自体がわかりやすいし「解決しない」っていう選択肢もあるなと思って。設計するのも楽しかったし、なんか逆のことをやる無駄さをうまく表現できて嬉しかった。

── 確かに「解決しない」って、もう一つの方法論を見つけたって感じですよね。

#8 ウミガメの産卵マシーン

── あと、ベストアルバムって言ったらデビュー当時の作品も入れたりするじゃないですか。ちょっと藤原さんのYouTube見ながら探してみません?

藤原:
じゃぁ……これは好きですね。作ってて楽しかったっていうだけですけど、ずっと好きだった小説家の方に「この作品が一番好き」って誉めていただいてすごく嬉しかった。

#9 松崎しげるが覗いてくるマシーン

藤原:
これも好きでしたね。この頃から電子工作を始めたんですけど「こういうこともできるな」って、深く考えずに作ってました。

取材で好きな作品を聞かれても断ってる

藤原:
これでもう、最後ですかね。

── え、そうなんですか?200以上も作品があって、まだまだ代表作ありそうなんですが……

藤原:
うーん……なんかいろいろ作りすぎて思いつかない。
作ったらもう興味ないというか、(作品自体を)残してるのもあるけどもう見ないですね。

── 初期の頃の作品で言えば「歩くたびに胸が大きくなるマシーン」とかは入ってこないですか?

藤原:
あれは……作った当初はすごい好きだったんですけど、今はそんなに好きっていう感じじゃないです。昔の作品とかは、今見てもそんなにすごいって思わなかったりとかして。
自分の作品も全部フラットに見てるので、取材とかで「好きな作品ベスト3を教えてください」と言われたりしても断ってるんですよね。

── すみません、僕も聞いててそんな気がしてました。

藤原:
今日も選んだ作品に新しい作品が多いっていうのは、日々新しいものを作り続けてるからで、古いものから記憶が抹消されちゃってるっていうのが単純な理由です。
だから最後は、(取材時に)一番最近のやつで「スイカバーソルジャーソードケース」ですね。

#10 スイカバーソルジャーソードケース

── クリエイターにとって、最新が最高って思えることって良いですよね。

藤原:
はい、だから私は順番もこれでいいと思います。

有用性という言葉を捨てて、人間の精神を解放せよ

── ここまで聞いて、やっと藤原さんのことがわかってきた気がします。ウケなくてもあまり反省はしない感じですか?

藤原:
反省はしないですね。作りたいものを作るっていうのが「無駄づくり」なので。
例えばツイートして反応がもらえなくてもそれが駄目だったとは思わないし、その時に作りたいものに集中して、手を動かすっていうヒマつぶしだし。うん。

── では逆に、これからやりたいことや身につけたいスキルとかはありますか?

藤原:
ARとか3Dモデリングの技術はもうちょっとやりたいですし、ソフトウェア開発もすごく興味があります。それでいろいろな人に使ってもらえるものを開発したいですね。

── スキル面がどんどん本格的になるのも楽しみですけど、そうなると気になるのが、作品が「無駄づくり」になる基準ってあったりするんですか?

藤原:
アメリカの化学者で、プリンストン高等研究所の創設に携わった“エイブラハム・フレクスナー”という方がいるんですけど、エッセイに書いていた「有用性という言葉を捨てて、人間の精神を解放せよ」っていう言葉が大好きなんです。
人って何か作る時に「役に立つ」か「役に立たない」かでふるいにかけてると思うんですけど、あえて「役に立たない」っていう選択肢をとることによって広がる可能性とか、生まれてこなかったものを見つけることが、まだたくさんあると思うんですよ。
もし、可能性を狭めて生まれてこなかったものが今までにたくさんあったって考えるとすごい悲しい気持ちになって……「何か無駄でもいいから作り出す」って思ったことが「無駄づくり」の精神性なので、それで生まれたものが「役に立つ」ものになったとしても、それが「無駄づくり」に反するということはないんです。

── なるほど、つまり無意識に「これなんの役に立つねん」って捨ててしまうところも、捨てないで形にしてるのが「無駄づくり」で、作る前の段階に精神性がある感じ?

藤原:
そうですね、最後にどっちになっても「無駄づくり」。
自分が作って楽しくて、ヒマつぶしになってたら「無駄づくり」ですね。

── ちょっとまって、さっきからちょいちょい出てくる「ヒマつぶし」ってなんですか?そもそも藤原さん暇じゃないですよね?

藤原:
いや……なんか私、暇なんですよ。
だから、アイデアを実現することに時間を割けていることが幸せだし、その幸せな時間がいっぱいあるのが「ヒマつぶし」です。

── なるほど、藤原さんの「ヒマつぶし」ってただ時間を埋めてるんじゃなくて、モノを作れる時間を指してるんですね。そう考えると「無駄」も「ヒマつぶし」も僕らと捉え方が違っていて、そこに藤原さん独特のオリジナリティを感じてるのかもしれないな。

作品をつくる自分ごと楽しんで欲しい


展示入り口のインパクトのあるポスター

── 今回、人間と一緒に展示を作ってみてどうでした?今までの展示と変わった部分ってありますか?

藤原:
楽しかったですよ。私ってあんまりチームで仕事することがないんで、いつもだったら自分が言ったことをみんなが形にしてくれる事が多いんですけど。今回はみんなでいろいろなアイデアを出して、会議を重ねて決めていったじゃないですか。だんだん形になっていくのが楽しかったです。
あと、実際に作品に触れたり、体験できるところですね。いつもの展示では置いているだけだったり、映像展示も多いので。大きい作品を作るのも楽しかったですし。

── 展示ではポスターや等身大パネル、映像にも顔出しで出演されてますけど、そのへんは抵抗ないんですね。

藤原:
自分のキャラクターというか、なんか“自分が好き”なので、そういうのも含めて作品を作ってる自分ごと楽しんでもらえたら、いいかな。

── 自分が好きって言い切れるの良いですね!それって、自分がしたいことが出来てるって感じで、すごく良いと思います。

続きは株式会社無駄 渋谷支展で

この記事の冒頭で「この人ヤバい」と感じていたモノの正体は、彼女の表現者としての純粋さに気づき、「自分が好き」と言い切れるほど迷いのない創作意欲に少し気圧されていたのかもしれません。
そんな「無駄づくり」のヤバさの一端を体験いただける展示を渋谷に作りましたので、「無駄づくり」に少しでも興味を持たれた方は是非お越しください!

株式会社無駄 渋谷支展
期間:2022年8月8日(月)〜9月11日(日)
開催時間:11:00〜19:00
場所:マイラボ渋谷(入場無料)