J-POPは、今。〜サブスクで変わった音楽と世界の距離感〜


山根 シボル
author
山根 シボル

僕は子供の頃からずっとラジオが大好きで、最新の音楽の情報はいまだにラジオを頼りにしてたりするんですが、最近つくづく思うんです。「J-POP」ってなんて面白いんだと。
しかし、この歳になるとなぜか真面目に音楽の話をするのが恥ずかしくなってくるんですよ。「お前40も近いのにまだ音楽聞いて感動してんの?」って気がして。

それなら、そもそもラジオの人とお話したらいいんじゃないかと。例えばFM802なら、年中うちのオフィスではかかってて聴いてるし、実は前から『MINAMI WHEEL』の中継をしたり『水都村ビッグ盆』で一緒にイベントやったりしていた仲。

そこで今回はFM802からDJの野村雅夫さんにご登場いただき、「J-POPの今」について教えていただきました。

FM802 ラジオDJ 野村 雅夫(のむら まさお)
1978年11月生まれ。 ラジオDJ、翻訳家。 映画・演劇・音楽・文学などなど、イタリアの文化情報を発信する京都ドーナッツクラブ代表。 訳書にシルヴァーノ・アゴスティ『誰もが幸せになる 1日3時間しか働かない国』(マガジンハウス)や『罪のスガタ』(シーライトパブリッシング)がある。
現在はFM802にて「Ciao Amici!」(月〜木、17:00〜19:00)を担当中。【番組WEBサイト】

最近どうやって音楽聴いてますか?

── それじゃ早速なんですが、普段どんな曲聴いてるんですか?

野村:
まず、僕は『Ciao Amici!』という番組を月〜木でやってて、毎日選曲作業があるんですね。この番組はジャンルが「ワイド」なタイプなので、雑食に色々とチェックしなくちゃいけない。基本的には好みで選ぶんですけど、中には「番組に映える」という曲もありますし、新曲を起点に旧譜を聴き直して良さを再発見してもらおうと思って、あえて古い曲をかけることもあるんです。

── あ、DJさんって選曲もされるんですね。でもラジオで流す曲って自分で探したりしてるんですか?

野村:
僕、FM802のDJになってちょうど10年なんですが、新譜と接触するシチュエーションはガラリと変わりましたね。ラジオ局って基本的に発売前にCDをもらえたりはするんですけど、昔はそれとは別に大型のCDショップを回ってたりしたんですよ。パトロールと言うか、試聴機を聴くとかね。
ところが、ここ数年はサブスクリプションで新譜をチェックすることが増えました。特に洋楽は多い。

── 同感です!AppleMusicを使ってるんですけど「For you」のプレイリストとかドンピシャで好みを当ててきますよね。

野村:
僕なんかは色々聴きすぎて「For you」めちゃくちゃなってますけどね(笑)
主にAppleMusic、Spotify、KKBOXなどを使っているんですが、いくつも使ってみて気づいたサブスクの最大の特徴はとにかく「新譜を聴かせる」ということなんですね。開いた時に出てくる画面に新譜がザーッと並んでるとか、トレンドを追いかけやすいシステムになってるんだと思います。

── でもそれってタワレコとかも一緒ではないんですか?

野村:
いや、確かにタワレコとかもそうなんですけど、サブスクのユーザーさんにわざわざお店まで行く人がどれくらいいるのかなと。だって、サブスクの場合はワンタップで曲が聴けるわけじゃないですか。
だから以前以上に新譜に触れる機会というのは増えてるし、サッと聴いて「あ、こういうのがあるんだ」って、一般の人も新譜をやたらチェックする時代になったと思います。これは劇的な変化ですよ。

── さらに過去の曲を聴いたり、マニアックな曲も気軽に聴けるようになったなと感じてます。

野村:
音楽の膨大なアーカイブに、月1,000円位でアクセスできるようになったわけじゃないですか。古い曲を掘る人にとってはこんなにいいことはなくて。
MONDO GROSSOの大沢伸一さんと話してる時に、色んな国々をまわって手に入れた超レアな音源を「見つけたんだ!」って紹介してくれたんですけど、普通にサブスクにあったっていう。「非常に伝えにくいんですけども…」ってなって(笑)

もう日本のマーケットでどうという話じゃない


実際にスマホで説明しつつ世界の話へ

── 今日はサブスクの話が中心になるとは思っていましたが、今ってもう世界中の音楽が並列化してきてるんですね。

野村:
ええ、僕もよく使ってるんですが、実はAppleMusicもSpotifyも世界中のチャートを見られるんです。アメリカとか、UKでも、すべての国のTOP100が見られるんですよ。

── え?今ちょっとスマホで見てみていいですか。AppleMusicなら「見つける」のところにあるんですね。


AppleMusicの「デイリートップ100」

野村:
普通のメディアが報じるのってUKくらいまでなんですけど、タイもフランスも韓国もドイツでも、ヒットチャートが何十カ国分も網羅されてるんですよ。僕の場合はイタリア生まれなんで、昔ならイタリアの曲を聴くなんて大変だったんですけど、これが登場したのが本当に大きい。
例えば、自分が聴いてるエド・シーランの曲も今、ガーナでも聴かれてるんだって、この手のひらの上で分かることがめっちゃ面白いんです。

── ってことは逆に日本のチャートや曲も世界中の人がチェックする可能性があるわけですか?

野村:
そうなんですよ。「ASIAN KUNG-FU GENERATION」とかアニメの主題歌をきっかけに南米でも人気があるんですが、サブスクの時代では、その1曲をきっかけに他の曲にもアクセスできるんです。アジカンは早い段階からそれを理解していて、必ず曲のタイトルを日本語と英語と両方表記するようにしてるんですよ。

── このチャートのある国の数だけ需要が生まれるということなんですね

野村:
そうなんですが、同時に“埋もれる”という考え方もあるので、どうやって話題を作っていくかっていうのが、今のミュージシャンたちの目下の課題になっているんです。
例えば、日本のミュージシャンでいうと「AmPm(アムパム)」というグループがいるんですけど、はじめから日本のマーケットでどうという話じゃなくて「サブスクでどう聴かれるか?」ということを意識して曲が作られてるんですね。

── え、サブスクで聴かれるコツってあるんですか?

野村:
めちゃくちゃリサーチしたらしいんですが、とにかく「色んなプレイリストに入れば再生回数がどんどん上がっていく」と。人気のプレイリストに入れる曲の傾向を分析して、Spotifyのディレクターが選びそうな曲を想定するらしいです。それで実際、日本で人気出る前に世界中でまんべんなく曲が聴かれたんですよ。
今ではラジオでもかかりますし、国内の様々なアーティストと組んで活躍しています。

── そういえば最近、僕の好きな石野卓球も一曲づつ新譜をリリースしてるんですが、それも関係してるんですか?

野村:
一曲づつリリースすれば、露出が増えますよね。後にアルバムにまとめるにしたってまずはプレイリスト狙い。常に新曲を出して話題を作っていかないと、どんどん新譜が更新されて行く中で消えてしまう。だったらまとめて出すより毎月出したほうがいいよねっていう。だから増えましたね、何ヶ月連続配信とか。

── プレイリスト狙いって考え方があったんですね…知らなかった…

野村:
CDが売れてた頃って、アルバム文化があってシングルカットってあったじゃないですか。それって、まずはアルバムを気に入ってもらって、人気曲が生まれて、それがシングルカットされてヒット曲になっていくっていう構造だったんです。
だからその頃のライブツアーっていうのはアルバムを気に入ってもらうためのツアーで、アルバムのレコ発ツアーって言ってるのはその名残りです。

── アルバムをPRするためのツアーだったんですね

野村:
今は目的がガラッと変わって、サブスクで出してしまうとCDでは買わないので、むしろライブでの収益を目指しているんです。そうなると物販もすごく大事で。今ってグッズはいっぱい持っててもCDは持ってないってファンもたくさんいますからね。そうした音楽でのビジネスのサイクルは目まぐるしく変わっていってます。

── なるほど、ライブ自体の収益が目的になったと。

野村:
ロックバンドに関して言えば、日本ではまだライブハウスシーンが熱いし、フェスがこれだけ多くなったんで、フェスに出ることで自分たちの収益の本丸である“ワンマンライブ”にお客さんを誘導する事が重要になりました。例えば「フェス」がシングル、「ワンマン」がアルバムっていうような比喩も成り立つと思います。

ネットが王道になる音楽業界


さすがDJ、話がとてもわかりやすいし聞きやすい。

── ちょっと話は変わるんですが、最近のアイドルって、楽曲がすごいことなってません?ジャンルが多様化しすぎというか。

野村:
そうですね、アイドルって元々大御所のアーティストがプロデュースするものだったんですが、10年くらい前からアイドル戦国時代っていうのが始まって、アイドル自体が増えていったんです。
そうなると物量が必要となるわけですが、すべてを大御所の人にお願いするわけにもいかない。そこで注目されたのがネットで音楽を発表している、いわゆるトラックメイカーと呼ばれる人たちですね。

── ニコニコ動画とかが流行した時代ですね。

野村:
彼らからしたらYoutubeやニコ動とかで発表しても埋もれちゃう中、曲を作ったら買ってくれるファンがいて、歌い手もいるアイドルとの仕事は嬉しい。そういう意味では、ボーカロイドなどのネット文化とアイドル戦国時代がうまくシンクロして、日本のトラックメイカーたちを大きく動かしたという面はあります。
メディアと、コンテンツと、デスクトップで音楽を作れるようになったハード面の進化。世界的に見るとその進化はEDMの文化に繋がったんですが、日本の場合はアイドルシーンという独自の文化になった。

── 日本だけすごい方向に行きましたね(笑)

野村:
その頃のトラックメイカー達は、アイドルとも、tofubeats君みたいなラッパーとも繋がれるようになったし、もちろんボーカロイドを使ってもいいし、なんだかグチャグチャな感じが面白かったですね。
そんな、ここ10年くらいの素地があったからこそ、ヒャダインや米津玄師、岡崎体育など、ネットからデビューした人が出て来れたんだと思います。だってみんなバンド組めないですもん、キャラクター的に(笑)

── ネットのおかげでデビューのハードルも下がったんですね。

野村:
自分で歌えなくても活躍できるようになったことで、多様性を生んだとも言えると思います。須田景凪とか、ネット周りから出てきた人も鳴り物入りでヘビーローテーションになるというケースも増えてきてるんですから。

── だって音楽を聴く中心がネットになってるなら、ネットこそが王道になりますもんね。

誰もがいきなり世界デビューしている


手のひらのスマホに集約される音楽業界

── 話をまとめると、今の音楽の中心はサブスクとフェス(ライブ)って言うことでいいですかね?

野村:
いいんじゃないですか。
それまでネットで音楽を聴くのって、海賊版的なイメージが大きかったですけど、今や合法的に聴けるしくみが整備されたっていうのは大きいですよね。始まった頃なんて、サブスクでユーミンが聴ける日が来るなんて思ってなかったですもん。

── 今って、どんな新人でもいきなりサブスクに登録されてますよね。あれってどうなってるんですか?

野村:
だってCDショップがこれだけ減ってきてる状況だと、CDをリリースしても売る場所自体が無いじゃないですか。だったら、サブスクに登録するほうが自然ですよね?

── そもそも選択肢がサブスクしか無いのか!

野村:
でもいきなり全国流通、ワールドワイドリリースですから。昔だったら「これが初めての全国流通盤です!」ってCDを出してたのに、「AmPm」なんて初めレーベル契約さえしてなかったですからね。メジャーデビューという考え方自体、明らかに変わってるんです。

── そんな時代を代表するようなアーティストって誰になりますか?

野村:
一人だけあげるとすると『ビッケブランカ』ですね。それこそSpotifyのテレビCMソングも歌ってますし、TVドラマの主題歌でも売れたりもしてる。J-POPの王道も通りながら、サブスクでの聴かれ方も意識してるし、両方で成功してるアーティストだと思います。

── へえ!それは自分たちで考えてプロデュースできているんですか?

野村:
Spotify TVCMタイアップ曲の『Ca Va?』は、海外からも聴いてくれるかもしれないからタイトルは外国語にしようということで、パリにいた時に聴いた「サバ?」という言葉を思い出して付けたそうです。一曲の中で目まぐるしく曲調が変わるところも、短い時間でパッとフックになってサブスクと相性が良い。
そんな感じで、今を代表する作り方をすることで実際にサブスクでもよく聴かれていて、さらにラジオでもよくかかってるし、テレビでも使われている、大注目の人物だと思います。


ビッケブランカ / 『Ca Va?』(official music video)

そしてラジオは、今。


最後はラジオの未来を語っていただきました

── いやぁ〜。なんとなくこの令和の音楽ファンの“当たり前”ってのがわかった気がします…

野村:
これだけサブスクリプションサービスが黒船のように入ってきて、よく「ラジオ大丈夫っすか!?」って言われたりするんですけど、「全然競合してないんですけど」っていうのが僕の答えで。FM802内でもそう思っている人は多いと思いますよ。

── 先日のヒロ寺平さんの引退宣言を聞かせてもらった時、サブスクに対して「ラジオはヒューマンメディアだから負けません」って断言していて、そこまでサブスクを意識していることに驚きました。

野村:
ラジオとサブスクの違いは「なぜこの曲をリスナーに届けたいと思ったのか?」のようなメッセージが伝えられること。ラジオで聴いた曲をいいなと思ってもらえれば、サブスクでもう一度曲に浸ってもらったり、過去の曲を探したり、共存したほうが僕らの強みも発揮できると思ってます。
そういう意味で、僕らはヒロさんが言うところの「ヒューマンメディア」な部分、温もりのようなものをプラスアルファとして付け加えていく仕事で、それはずっと変わらないと思います。

── ネットによってラジオもこれから変わっていくんですかね?

野村:
radikoのおかげで、ラジオを取り巻く環境は変わってきてますね。日本のラジオってなかなかネットと共存できてなかったんですけど、日本中のどんな番組でも聞き直せるなんて、世界でもあまり無いサービスや機能が生まれたのは面白いと思ってます。

── 僕もradiko使ってますけど、おかげですべてのラジオ番組が「音声コンテンツ」になったと思っていて、Netflixじゃないけれど、別のビジネスが成り立つ可能性さえ感じてます。

野村:
ある出版社の方に「FM802ってこんなに豪華なゲストが出てるんですか?雑誌の特集でこれだけブッキングしようと思ったらめちゃくちゃ大変ですよ」って驚かれましたもん。本当は僕らの番組も立派なコンテンツになりえるんじゃないかと。でも、まだまだradikoの良さは伝わってないと思いますね。

── 若い人にはラジオの存在さえ怪しいですよね。

野村:
元Amazonの人が、会社を辞めて始めたカセット専門店のワルツってあるんですけど、カセットだけを売っても聴く機器がないから、一緒にラジカセも売ってるんですよ。で、ラジカセって言うことはラジオも付いてるでしょ。若い子からしたら「え?ラジオも聴けんの?アンテナを伸ばすの?」ってなんないかなって。
「あえて電波で聴くオレ。」みたいに。

── そんな都合よくいきます?(笑)

野村:
とにかく、FM802は若い人にはかっこいいと思ってもらわなくちゃダメだし、若者のメディアであり続けないといけないですから。「FM802を聴くことがかっこいい」ということをもう一度、僕らがどう作っていくかっていうのは継続的に考えていくべき課題だと思っています。
うちはミュージシャンとの関わりは広いし、深いんですが、一方でライトな音楽ファンをどうやってラジオに戻せるかなーと。ラジオって何?っていう人に気づいてもらうために、まだまだ努力しないとなと感じてます。

音楽業界は「早く来た未来」っぽい

今回、野村さんに様々なお話を聴いて感じたのは、音楽業界だけはいち早く“すべてデジタル化した時代”が来ちゃったんじゃないかということ。

テレビも本もゲームも世の中のカルチャーってだいたいデジタル化は進んでるんですが、音楽ほど「もうモノは要らない」ってなった分野は無い気がするし、個人が自分の意志で世界デビューできちゃうのも、音楽の分野が一番早く、ポピュラーになっていったと思います。
最も衝撃だったのが「プレイリスト狙い」という言葉で、インターネットの影響でモノの価値が変わった象徴的な例だと思うし、情報がインフレを起こしてるような世界で作品づくりをする上で、理解すべき感覚だと思いました。

だってWEB上のネタも、凝ったコンテンツからブログ記事になったり、すでにその先に進もうとしてたり。クオリティより、スピードとアイデアという考え方もある。
“モノの時代”のルールや価値観は、いっぺん捨てる必要があるんだろうな。