近大を躍進させた世耕石弘とは何者なのか?業界の常識をぶっ壊し続ける「私大ベンチャー論」


こんにちは。人間の相談できるデストロイヤー兼人間編集部編集長のトミモトです。

早いもので、近畿大学と人間のお付き合いは5年以上。

2015年春に近畿大学の大学案内と入試情報サイトのリニューアルを担当し、その後、2016年春に新設された国際学部のティザーサイトやキャンペーンサイトを制作したり、現在は近畿大学のニュースサイト「Kindai Picks」の記事制作や、2018年からはオープンキャンパスの特別企画として謎解きイベントの企画・運営も担当しています。


リニューアル当時の入試情報サイト「いくぞ!近大

近畿大学といえば、「近大マグロ」のイメージが強いですが、広報戦略によって受験者数を10年で2.2倍※1に伸ばし、リクルートの調査では関西の「知っている大学」ランキングで1位※2、西日本私立総合大学で唯一「THE世界大学ランキング2020」で601-800位にランクイン※3するなど、メキメキと知名度を上げているイケイケの大学です。

※1:一般入試の総志願者数が2009年の71,734人から2018年は156,225人に増加(大学通信調べ

※2:関西の「知っている大学」ランキング(リクルート「進学ブランド力調査」2019

※3:「The Times Higher Education World University Rankings 2020」において、 近畿大学は昨年同様、早稲田大学、慶応大学と同じ601-800位にランクイン


裏なんばの立ち飲み屋にやってきた
人間のデストロイヤー・トミモト(左)と近畿大学・世耕部長(右)

そんな近畿大学のブランド力を上げる大改革を行ったのが、広報室を含む近畿大学の総務部長の世耕石弘氏。

近畿大学創設者・世耕弘一氏の孫であり、父親や兄や叔父も元理事長・政治家・医学者など……エリート一族の家系で育った世耕部長が、どうやって近畿大学を改革していったのか?そして株式会社人間はそんな近畿大学の役に立っているのか!?

今回は、なぜか裏なんばの立ち飲み屋で飲み歩きながらのぶっちゃけ対談をお届けします。

世耕石弘
近畿大学 総務部長
奈良県出身。大学を卒業後、1992年近畿日本鉄道株式会社に入社。以降、ホテル事業、海外派遣、広報担当を経て、2007年に近畿大学に奉職。入学センター入試広報課長、同センター事務長を経て、2013年4月より広報部長代理、2015年4月より広報部長、2017年4月より広報部が総務部広報室となり総務部長に。著書に『近大革命』。

近大と人間の出会いを振り返る


「裏なんばの変わった店に行きたい」という世耕さんを、
キャラの濃い店員さんが切り盛りするホルモン立ち飲みスーパージャップへご案内

トミモト:
2014年の5月に、大学案内と入試情報サイトのリニューアルのコンペで初めて世耕さんと名刺交換させていただいたんですが……その時のこと覚えてらっしゃいます?

世耕:
覚えてるよ!デストロイヤーって名刺もインパクトあったけど、あん時のトミモトさん、頰がこけてガリガリに痩せて、目もすわってるし、そんで首元がベロベロってなってる変な服着て、とにかく「ヤバいやつ来た」って強烈な印象だった。

トミモト:
ちょ……ちょっと待ってください。世耕さんの記憶の中の私、そんな感じなんですか!? 当時そんなに痩せてないはずですし、記憶書き換わってません……? でも、確かに変な服は着てました。プレゼンの前日に、広告代理店の担当者にどんな服着ていけばいいか聞いたら「いつも通りで!むしろ、いつもよりちょっと変な格好で来て!」って言われまして。


着ていたのはこの服です(写真は西成の立ち飲み屋)

世耕:
へー、そのオーダーは間違っていなかったな……。あれは忘れられへん。

トミモト:
広告代理店の大広さんは、株式会社人間をアサインした時点で、世耕さんが大学に場違いな「大阪の変なクリエイター集団」に食いつくことを狙って戦略を立てていたようです。

世耕:
そもそも、大広を入れようと思ったのも、それまで「大学の仕事をしたことがない」ってところがポイントだったからね。大学の仕事をしてる広告代理店って昔から決まってるわけよ。そういう広告代理店は、大学のことを知りつくしているからこそ、ぶっ飛んだ企画は出てこない。でも、常識で思いつくようなことをやっていたら他の大学に勝てない。

トミモト:
そのコンペって、ちょうど、近畿大学が「固定概念を、ぶっ壊す。」の新聞広告を出した後だったんですよね。なので、デストロイヤーという肩書きの私に食いつくであろう……と。


ぶっ飛んだ広告として話題になった、2014年1月新聞広告「固定概念を、ぶっ壊す。」

世耕:
確かにドンピシャだった(笑)

トミモト:
結果、大広さんと一緒に提案した企画の中から、雑誌『東京グラフィティ』とのコラボで大学案内を作るという案が採用されました。提案前は「関西ではあまり知られていない」というところが懸念点だったんですが。

世耕:
いやいや、あれはね、むしろ「関西で知られていない」ってところが良かった。俺らも初めて見るから「へー、こんな雑誌あるんや」って思ったし、名物企画の「タイムスリップ写真館」なんかも目新しいわけ。だから、雑誌のネームバリューをというより、あの雑誌の企画を大阪の大学がやるっていうことに価値があった。

トミモト:
なるほど!実際の反響はどうでしたか?今年でもう5冊目になりますが。

世耕:
もう、最高!!大学案内をあれにしたというインパクトもそうだけど、雑誌と同じ方法で作られているというのが良かったね。一般的なパンフレットを作っている会社に発注する場合、掲載する学生から情報から全て大学が用意しないといけない。でも、東京グラフィティは、彼らの足で学生を探してくれる。雑誌社の人たちは機動力が違う。

トミモト:
今日はお酒も飲みながらの対談なので思い切って言いたいことがあるんですが、最初、世耕さんも近大広報の方々も全員すっごく怖くて……!仕事が決まってからの初顔合わせの日のことが忘れられないんですよ。広報の方たちがズラッと5〜6人並んでいて、こちら側は代理店の担当者や東京グラフィティの編集者含め10人ほど。で、資料を渡して、説明をして「どうですか?」って言っても、5分くらいずっと資料を見ながら無言……みたいな。すごい威圧感でした。


最高に美味しいイカ焼きを食べながら酒もすすむ

世耕:
あれはね、真剣なのよ。決まったら引き返せないし、資料見せられた瞬間に頭の中でぐるぐる考えてる。ある意味粗探しなんだけど、うちは基本的にそのまま採用する気ないからね。

トミモト:
ちなみに、あの日はうちの代表の花岡と山根も来ていたんですが、覚えてらっしゃいますか?

世耕:
社長が変な髪型だったことだけは覚えてる。

トミモト:
実はあの日、花岡が近大に行く途中でぎっくり腰で動けなくなりまして。でも、私たちは遅刻するわけにもいかないので、近大通りに歩けなくなった花岡を置いていったんですよ。花岡も「俺のことはいいから先に行ってくれ……」みたいな感じで。そうしたら、心優しい近大生が、花屋で借りた台車にぎっくり腰の花岡を乗せて運んできてくれて、ギリギリセーフで間に合った……というエピソードがあるんです。


忘れもしない2014年6月30日の出来事。
帰りは山根が花岡を乗せた台車を引いて、途中の花屋に台車を返しに行った。

世耕:
なんで打ち合わせの時にその話せぇへんかったの?おもろいのに。

トミモト:
そんな話できる雰囲気じゃなかったんですよ!ちなみに、コンペで提案した企画の中で、私たちのイチオシは「オープンキャンパスと連動する謎が隠された大学案内」というものだったんです。もう一つ「スパイシーなカレー付大学案内」というのもありましたが。

世耕:
あったねぇ。

トミモト:
当時はこんなに大阪スパイスカレーブームが来るとは思っていなかったんですが、あの提案は早すぎたのかもしれないので、そろそろカレーの企画とかどうですか? でも、念願叶って昨年からオープンキャンパスで謎解きイベントをやらせてもらっているのは嬉しいです。

世耕:
謎解きね。俺さ、あれ、全然解けなくて途中で諦めたんやけど、高校生ちゃんと解けてんの?


近大謎解きキャンパス 暗号だらけの仮想通貨パニック


近大謎解きキャンパス ゾンビだらけのサイエンスパニック

トミモト:
解けてますよ。昨年は仮想通貨をテーマにしたということもあり難易度が高かったんですが、今年は「ゾンビが何を求めているか考えて喜ばせてあげる」というコミュニケーション要素がメインになっているので、難易度は低めです。

世耕:
あれで難易度低めなんや……。

トミモト:
謎解きマニアの方にとっては物足りない難易度です。でも受験生にはドンピシャな内容になっていると思います。自分で言うのもどうかと思いますが、アカデミックシアターの宣伝、学問の入り口となる気付き、高校生が進路を決める時に感じる悩みや違和感に対して一つの考え方を提示するような、素晴らしいストーリーになってるんです! 実際、驚異的な満足度で、アンケートのコメントを読むと、保護者の方も「感動した」って言ってくださっています。

世耕:
もう、オープンキャンパス全部謎解きにしたらえぇんちゃう?学問自体謎解きみたいなもんやし。

トミモト:
サラッと恐ろしいこと言いますね(笑)

近鉄の広報から大学の広報に

トミモト:
世耕さんは、近畿大学創設者の孫であり、お父さんやお兄さんも近畿大学の理事長を務められてきたわけですが、元々「近畿大学で働く」というイメージはあったんでしょうか?

世耕:
いや、全っ然なかった。どちらかというと、別の人生歩みたかったんですよ。大学受験の時も「近大受けろ」って親父に言われたけど、世耕って名前珍しいから親族ってバレるやん。それが嫌で同志社大学に進んで。同志社では武道系の部活を頑張ってましたねぇ。就活の時も……当時はバブルの時代で、先輩も銀行とか証券会社とか金融系に就職する人が多かったけど、全然興味なくて。そもそも働くこと自体が嫌で。

トミモト:
えっ、そんな感じだったんですか!

世耕:
でも、人に愛嬌を振りまくことは得意だったので、接客業ならできると思って、ホテルマンを目指したんですよ。そこで、近鉄(近畿日本鉄道)はホテルに出向できるコースがあることを知って……。

トミモト:
じゃあ、広報を目指していたわけでもなく、鉄道の仕事でもなく……

世耕:
そう。入社して2年間は、ホテルのフロントとかバーテンダーとかひたすら現場実習。出世ルートじゃないし、出勤は夕方から夜中の2時とかで大変なんだけど、楽しくて「一生ホテルでいいわ」って思ってた。それで、入社して2年経った時に、社内でアメリカのホテルに派遣される公募があって。高校の英語のテストで20点しか取れなかったくらい英語苦手なのに、英語しゃべれるふりして応募したんですよ(笑)。


この店のオーナーが制作した映画「ニワトリ★スター」。
実は近畿大学が出てくるらしい。

トミモト:
じゃあ、アメリカに行ってからしゃべれるようになったんですか?そこからどうやって広報に?

世耕:
近鉄の会長がアメリカに視察に来ることがあって、俺が案内をしたんだけど、基本的に旅行者の案内ってめちゃくちゃしんどいのよ。あっちは短時間で色んなところまわりたいから、夜遅くまで飲んで次の日は朝6:00集合!みたいなスケジュールで動かないといけない。でも、俺はそういうの全然平気で、むしろ楽しんでた。

トミモト:
当時まだ20代ですよね?

世耕:
27歳やったかな。で、そんなことしてたら「なんかテンション高くておもろいやつがいる」って噂になって。日本に戻った時に「鉄道の広報にけぇへんか?」と誘われた。

トミモト:
へーー!鉄道の広報に転職してからはどんなお仕事をされていたんですか?

世耕:
まず、最初に職場に配属された瞬間に人身事故。

トミモト:
あー。

世耕:
その時、全然頭がついていかなくて、すぐに動けなくて怒られたんだよね。人の生死がすぐそこにあって、それを仕事として対応しなきゃいけないんだけど、それに慣れるのは難しかった。

トミモト:
そうですよね。鉄道会社は、事故やトラブルの対応が本当に大変そうです。

世耕:
日本経済が大変な時だったから、リストラの広報もやった。近鉄バファローズ合併騒ぎ(2004年のプロ野球再編問題)もあった。あれはもう本っ当に大変だったよ。で、鉄道の広報を7年半やって、最終的に広報課長になったんだけど……


2軒目は若者に人気の立ち飲み屋みぞぐへ。

トミモト:
そこからどういう経緯で近大の広報に?

世耕:
近鉄で広報の大切さを知ってから、よく、当時近大の理事長だった親父に「大学はもっと広報に力を入れるべき」って話をしていて。昔から近大の話はよく聞かされていたから、研究成果がすごいってことは知ってた。でも、18歳人口が減って受験者も減りまくる……というのは見えていて。クロマグロの養殖が成功して話題になると受験者数もちょっと上がる。でもすぐ忘れられる。もうちょっとうまくやったらええのに……と思って、「上場企業の広報課長クラスを引き抜いた方がいい」ってアドバイスしたら「なんでお前がけえへんねん」って(笑)

トミモト:
そうなりますよね(笑)

世耕:
腹をくくって、2007年に近大の広報になろうと決意して。その面接の時に初めて近大に来たんですよ。

トミモト:
ちゃんと面接があるんですね。というか、それまで近大に来たことすらなかったとは。

世耕:
そう。で、最初に配属されたのは入試広報課。普通の広報をやると思っていたら違って。ちょうど入試真っ最中の時期だったから、まず「入試対策本部」ってとこに連れて行かれて、国語の問題とか配られて、みんな一気にパラパラ見出すんだけど、見ても全然わからへん(笑)。俺は内部進学だったから、そもそも大学入試を体験してないんですよ。

トミモト:
そうだったんですか!

世耕:
いまだに覚えてるのが、部下になる職員に「世耕さんの時代って、共通一次だったんですか?センターだったんですか?」って聞かれたんだけど、もう「共通一次って何?」ってレベルで、その名前すら知らん(笑)。大学で入試の仕事やってる人間からしたら、そんなやつが上司として入ってくるなんて衝撃過ぎるでしょ?

トミモト:
そこまで知らなかったとは私も驚きです。そこから大学入試のこと勉強したんですか?

世耕:
いや、諦めた。すぐに「無理」って(笑)。俺は、近大の認知度を上げて学生を集めるのが仕事やと思ったから、自分は違うことをする!って切り替えた。

前例のないことをやり続ける「近大革命」


かつおチューハイとスイカチューハイで乾杯。

トミモト:
広報戦略として、最初に成功した取り組みは何だったんでしょうか?

世耕:
2008年に、どの大学よりも早く完全インターネット出願に踏み切った「エコ出願」ちゃうかな。

トミモト:
他の大学でもネット出願をやり始めているところはありましたが、紙の願書を廃止して、いきなり完全ネット出願にしたんですよね。前例がないということで反対は多かったんじゃないでしょうか?

世耕:
めちゃめちゃ反対されましたよ。当時は兄貴が理事長だったんで、直談判に行って説得しました。兄貴は元々NTTに勤めていた経歴もあったから、理解があって。

トミモト:
実際、いきなりネットのみにしたことで困ったことはなかったんですか?受験生側からのクレームとか……


「近大ヘは願書請求しないでください。」
というコピーでどういうこと?と思わせた「エコ出願」の広告

世耕:
高校の先生からは99%反対されるとわかってた。前例がないだけで、世の中のネットやスマホの普及率を考えて計算すると、その時期から「イケる」って自信があったんですよ。でも、実際やってみて、後から「こうした方がいい」って細かい気づきはたくさんあったし、高校の先生からも色々指摘を受けて。でも、そういう指摘を聞いたらすぐに部下に電話して、その日のうちに対応するようにしたら、高校の先生からも「他の大学とは違うな」と思ってもらえるようになって。

トミモト:
行動力がハンパない……!広告もインパクトありましたもんね。この後から、近大の広告はついつい二度見してしまう、挑戦的でユーモアのあるコピーが名物になりましたよね。「マグロ大学って言うてるヤツ、誰や?」の広告とか、大阪らしい自虐系の広告で好きです。


難波から近鉄電車に乗ろうとすると、ドーンと待ち構えるマグロ大学の広告。

世耕:
自虐系の極みやね(笑)。あのコピーは僕の案で、ネットで「マグロ大学」って言われてるの知ってたから、あえて使ってやろうと思って。

トミモト:
大学であんな「大阪ノリ」をやるところ他にないですからね。その反面、東京の大学でもやっていない最先端のこともやっているからすごいんですよ。編集工学研究所の松岡正剛さんプロデュースのアカデミックシアターとか……私、初めて見た時本当に感動しましたもん。松岡正剛さんをアサインしたってところでもうノックアウトでした……


松岡正剛氏をスーパーバイザーに迎え、
約7万冊の蔵書のうちマンガが2万2千冊、
24時間利用可能自習室や日本の大学初のCNNカフェなどが入った画期的な施設

アカデミックシアターで何してるんですか?話題の新施設は自由過ぎてカオスな巨大ダンジョンだった

世耕:
学生は「イケてる空間」くらいにしか思ってないかもしれないけど、アカデミックシアターは、講演とかイベントで訪れる著名人が大絶賛してくれますね。ドワンゴ創業者の川上さんとか、落合陽一さんなんて狂ったみたいに写真撮ってましたよ(笑)

トミモト:
わかりますわかります。本の分類とか空間作りがすごいんですよ。わざと迷うような作りになっていたり。あれは、松岡正剛さんにしか作れなかっためちゃくちゃ貴重な場所ですよ。そうそう、更にすごい食堂もできましたよね。キャッシュレスゴリ押しの。


9月12日にオープンした、学生の健康管理とキャッシュレスに特化した次世代型新食堂。

超学食革命!健康管理とキャッシュレスに特化した次世代型「近大新食堂」徹底紹介

世耕:
キャッシュレス化が遅れてる日本で、近大生には新しい仕組みに対応してもらえるようにって、思い切って8台あるセルフオーダー機のうちの6台キャッシュレス専用決済にしたんですよ。学生証にVisaプリペイド機能をつけたり、うちは日本一キャッシュレス化を推進している大学やと思うよ。

トミモト:
プロテイン入りの麺とか、食事代替シェイクをアプリで必要な栄養をカスタマイズして注文できたり、セルフたこ焼きができたり、近大の研究成果の食材が食べられたり、色々最先端すぎます。

バズと炎上……傷付きながらも挑戦を辞めない

トミモト:
世耕さんは、近大のニュースサイト「Kindai Picks」に力を入れていますよね。最初は近大に関するニュースを集めたキュレーションサイトとしてスタートして、徐々に学生ライターによるオリジナルの記事を作るようになって。私たちも2016年の春頃から関わるようになりましたが、人間の社員だった社領エミ指名で、いわゆる「面白系」の記事をオーダーされて……。

世耕:
社領さんの記事面白かったから、当時広報のみんな読んでたからね。大学のサイトだからこうあるべきっていうのを崩したかった。


最新の研究や教授へのインタビューだけでなく、学生によるやってみた系の記事、
Webライターによるいわゆる面白系記事なども掲載している『Kindai Picks

トミモト:
当時、広報のKindai Picks担当さんから「3ヶ月以内に2万PVを超える記事を作れなかったらKindai Picksを終了させる」って世耕さんから言われたから、どうにかしてくれと言われまして。

世耕:
何それ?覚えてない。

トミモト:
覚えてない気がしていました……。で、私たちもその依頼を受けるかどうか、悩みつつも制作したのが「校長先生の話を大人になってから聞きに行く」という記事。これはとても良い記事になって、2万PV超えも余裕だったんですが……

「長くて退屈」だった校長先生の話、大人になってから聞くと面白いのか

世耕:
あったねぇ。

トミモト:
これをきっかけに、本格的にオリジナル記事全般と監修、学生ライターの指導まで請け負うことになったんですが……早速、見事に炎上した記事も生まれまして。

落書きのような油彩画が210億円!? 高額アートのカラクリを専門家に聞いてみた

世耕:
アートのやつね。

トミモト:
色んな視点の批判がありまして。最初は「面白い」とシェアされて、そのうちアート業界の偉い人たちのところに届いて大問題になって。もちろん炎上を狙っているわけではなかったですが、タイトルや導入でわざと無知で失礼な書き方をしたのは事実だったので……

世耕:
でも最後まで読めばアートに興味を持つ入り口になるような記事になっていたわけじゃない。そもそも、大学や大学の講師がアートをバカにするわけがないし。

トミモト:
そうなんです。先生は本当にアートが好きで学生想いの先生なんです。だからこそ申し訳ないんですが、色んな人がアートに興味を持って欲しいという意図だとしても、という人に対して「自分の感性で見ればいいんですよ」と言うことに対する懸念点とか、大学のメディアが面白系Web記事の手法を使っていることに対して難色を示す方もいた……

世耕:
新しいことやる度に「大学らしくない」って炎上しまくってるからね。『近大グラフィティ』を初めて作った時も「まるでファッション誌」みたいな感じでYahooニュースに取り上げられて、それに対する批判コメントがすごかった。「頭悪そう」とか「学長の挨拶がないなんて」って怒ってる人もいたけど、結果、受験生にはちゃんと刺さった。俺らも炎上して傷付くけど、わかってくれる人はいるから。

トミモト:
そうですね。前例がないからとうことで批判されたり、話題になることでどうしても付いてくる批判は乗り越えていくしかない。でも、どちらにしても炎上してライターが疲弊してしまうのは避けたい。かといって炎上しないようリスクマネジメントばかり考えていたら面白いものもできない……というジレンマが常にあります。

世耕:
爆買いの記事とか面白かったけどね。実際、あの記事読んでから、中国人すげぇな……って見る目が変わったし、難波とかで爆買いしてる中国人観光客見ると感動する。

中国人が「爆買い」する理由とは!?日本人の知らない中国の裏事情を近大の中国人留学生が語る!

トミモト:
でも、PVでは測れない価値もあるんです。例えば、私が書いた「あうとばぁん」の記事は、2万PVに届いていないんですが……OBやレトロゲームマニアが本当に喜んでくれて、SNSでたくさんコメントをいただきました。有名なゲーム会社の人が「直接お礼が言いたかった」ってわざわざ会社に来てくれたり、マニアの方から関連同人誌が送られてきたり、実は驚くような反響があったんです。

レトロゲームマニアの聖地だった近大前「あうとばぁん」の今と”あの看板の謎”に迫る

世耕:
へぇー。それは知らんかった。

トミモト:
ちなみに、あの記事って、世耕さんが「あうとばぁんの看板はフランス人がデザインしたらしい」という謎の情報をfacebookのメッセンジャーで送ってきて、あまりに気になるから話を聞きに行ったら完全にガセネタだったという(笑)。覚えてます!?


完全にガセネタだった、世耕さんからのメッセージ

世耕:
それは覚えてる(笑)。俺はそう聞いたんやけどね。

トミモト:
でも、むしろそのガセネタに感謝してるんですよ。色々調べているうちにもっと面白い話がでてきて。5回くらい通い詰めてようやくあの記事ができあがったので。でも、それって誰にでもできることではなくて、情熱がないとできない。数字だけでなく、そういうところも評価して欲しい!!「バズらせて」って言葉は呪いですから!!

私立大学はベンチャーであるべき


3軒目は味園ビルへ

トミモト:
近大は、大学というより、ベンチャー企業っぽいですよね。

世耕:
そういうけどね、私立大学っていうのはそもそもベンチャーであるべきなのよ。早稲田だって慶應義塾だって元々私塾みたいなもので、戦前、東大が東京帝国大学だったころに、大隈重信とか福澤諭吉が「国の政策通りに人間を育てたらダメだ」って作った大学でしょ。それってめっちゃベンチャーなわけよ。

トミモト:
なるほど。既存の学問や教育に疑問を持って、自分たちで大学を作った。それはまさに野心的な、ベンチャー精神ですね。

世耕:
日本の歴史を100年で見るのか2000年で見るのかで全然違うわけ。だから、私立大学がベンチャーだってことを忘れて、歴史とか伝統とか持ち出して「大学とはこうあるべき」って言ってること自体おかしい。

トミモト:
めちゃくちゃ納得です。

世耕:
あと、うちは入学式もオープンキャンパスも派手にやってるから、「エンタメ化するな」みたいにいよく言われるんだけど……むしろ「エンタメをバカにすんな」って言いたい。

トミモト:
ごもっともです!!

世耕:
エンタメってすごいやん。伝統伝統って言うけど、何十年も同じような入学式やってる大学は思考停止してるだけだと思うけどね。

トミモト:
この会話はそのまま全部使いたい!!アツい!!

世耕:
エンタメをバカにしたりアニメをバカにしたりする人って結構いて、入学式に漫才師呼んだら怒る人いるんだけどさ。漫才師バカにしてんの?って思うよね。僕らはつんく♂さんのことも漫才師も超リスペクトしてるし、創始者が大学を作った理由をちゃんと大事にしてるわけよ。

トミモト:
つんく♂さんプロデュースの入学式、数年前は入学生の反応も「アイドルのライブ?恥ずかしい……」みたいな雰囲気がありましたが、年々変わってきていますよね。今年の春の入学式は、ほとんどの入学生が目をキラキラさせて楽しんでいて、熱気がすごかったです……。感動して泣いてる親御さんもいましたし、大学側の本気が伝わっている気がします。


縁あって、ぱいぱいでか美さんも参加して、レポート記事を書いてくれました。

ハロプロヲタク号泣!つんく♂プロデュースの近大入学式にぱいぱいでか美が潜入【KINDAI GIRLS】

世耕:
葬式だって結婚式だってイノベーターみたいな人が変えてきた歴史があるでしょ。大学が画期的なことして何が悪いって話ですよ。

もっと、大阪だからこそできる面白さを!


人間の花岡・武藤が合流して、味園ビルの新春シャンソン荘で色んな話

トミモト:
最後に、株式会社人間に期待することを教えてください。

世耕:
もっと面白いことやって欲しいね。近大も人間も、もっと大阪らしいアホなことをしていいと思う。中身が本当にアホなのはアカンけど、違うやん?賢くないのに賢いフリしてるのが一番ダサい。お笑い文化は盛んなのに、意外とそういうことやってる会社が大阪に少ないのが不思議。

トミモト:
東京の方がそういう会社多いんですよね。東京の予算と大阪の予算ってやっぱり違って。Webや広告業界も東京中心にまわってる。マスコミ・メディア業界なんか特にそうです。例えば、大阪と東京で同じイベントをやったとしても、新聞やテレビ各社が来てくれるのは東京なんですよ。だから、面白い人たちはどんどん東京に行ってしまう。

世耕:
だからこそ、大阪すげぇって思わせなアカンのちゃうか?近大と人間で「さすが大阪」って言われるようなことをしていきたいね。

トミモト:
そうですね。私たちも工夫してやっていますが、東京に比べると大阪の会社は広報が下手だったり、安く買い叩かれて負けてしまうってところがある。だからこそ、強気の姿勢が大事!そして、スベって叩かれてもめげない精神が大事……!

世耕:
あと、もっとタブーに切り込んでいって欲しいかな。誰とは言えんけど、一度大炎上したり、大失敗して干された芸能界とか、リベンジするチャンスを与えるのってすごく大事やと思う。一度大失敗したら人生終了ではなく、なぜ大失敗を犯してしまったのか、そこを理解して、受け入れるというのも大阪らしい懐の広さなんちゃう?

トミモト:
確かに。エリート育成よりも、多様性や実学を重視している近大らしい考え方かもしれない。そういう大阪の懐の深さや底力を引き出していきたい!ありがとうございました!

撮影協力:スーパージャップみぞぐ新春シャンソン荘