Natts20周年記念号「南海全駅100連結!」


公開日2020/11/01
担当企画 / コンセプト開発 / アートディレクション / グラフィック制作

100駅に感謝を届けるために100パターンのフリーペーパーで実現しました

南海沿線の最新スポットやグルメ情報など、タイムリーな情報を南海電気鉄道(通称:南海電鉄)ユーザーに伝えるため毎月発行されている、南海電気鉄道株式会社のフリーペーパー「Natts」。2020年11月号で創刊20年目を迎える本誌の記念特別企画を、株式会社人間がプロデュースしました。

【背景】「読んだことがない人にも、Nattsを読んでもらいたい」

今回の企画の発端は、2020年3月に閉園した南海電気鉄道株式会社運営の「みさき公園」のPRに、株式会社人間が携わっていたことがきっかけでした。

2019年夏季には、毎年恒例のプール営業を行わないかわりに、通常よりお手頃価格でみさき公園を楽しんでいただくご家族向けのキャンペーン「親子水いらず」のコンセプト設計やグラフィック制作を担当。みさき公園閉園の際には、開園から63年間の感謝を込めたみさき公園最後のキャンペーン「みさき公園卒業式」の企画を提案し、コンセプト設計、グラフィック制作、Web制作を弊社が行いました。

このみさき公園にまつわる企画を「Natts」の制作ご担当者さまがご存知だったことから、「人間がやっている面白い企画を、Nattsの20周年記念号にも取り込みたい」「みさき公園のようなクリエイティブを、自分が担当する媒体でも手がけたい」とお声がけいただき、今回の企画に繋がりました。

「Web上でも話題になるような、そして、Nattsを読んだことがない人でも思わず手に取りたくなるような誌面を作りたい」とご担当者さまのご要望をうけ、読者や目に止めた人から話題がふくらみ、今月号だけでなく、今後多くの人がNattsを手にとるきっかけになるような20周年記念特別号を目標に、企画作りがスタートしました。

【課題】「リサーチで見えた、いままでの『Natts』」

まずはじめに、Nattsのユーザー層や知名度をリサーチするため、人間関係者を中心に南海電鉄ユーザーへのイメージ調査を行ったところ、

[1] 認知はしているが読んだことはない
[2] 読んだことはあるが、継続的に読んではいない
[3] 知らない

といった3パターンの回答を得ることが出来ました。
調査対象が限定的ではあるものの、ここから「あまり読まれていない」ということが課題の一つと考え、「まず手に取って読んでもらう」ためのNattsを作るという方針を立てました。

また、過去の周年記念号バックナンバーを分析すると、飲食店や施設の情報発信など、読者に矢印を向けた企画は多数存在するものの、読者を巻き込むような企画が少なかったため、制作側と読者側の熱量が一致しづらかったのでは?という発見もありました。

【解決策】「ユーザ一人ひとりに根付いた『私の街のNatts』を作る」

前述のとおり、今までの記念刊行号は読者を巻き込むような企画がなく、南海沿線ユーザーといえどNattsからの一方向的なコミュニケーションになっていることが分かりました。
これまでのNattsになじみのない方にも手に取っていただくには、まず媒体に興味を持ってもらうことや、手元に置いておきたくなるような、ユーザー一人ひとりにとっての価値を高めることが重要です。
「自宅の最寄り駅で配布されているNattsには、自分の生活に関連した情報が必ず掲載されている」というイメージを持ってもらえるような企画を、と考え生まれたのが、南海全100駅を1駅ずつ、100パターンにわけ表紙に印刷した「南海100駅オリジナル表紙」です。

この100種類の表紙は、一枚ずつ内容の違う可変印刷を行う手法「バリアブル印刷」で実現しました。
この印刷方法で100種類もの表紙を一度に刷るのは今回が初めてだったそうで、結果的に印刷会社さまにとっても、今回の企画が実績の一つになったそうです。

設置されている駅によって表紙の駅名が異なる仕様で、その駅にご縁のある南海電鉄ユーザー一人ひとりにより親しみを感じてもらえるデザインを目指しました。
表紙下部は南海電鉄全100駅分の南海電車を各駅の「あるあるネタ」と合わせて、繋げられる特別仕様のデザインになっています。

実際に100駅分の表紙をすべて並べてみました。

南海なんば駅構内に展示(展示期間:2020年10月30日~11月30日)

Nattsを100種類連結させると75mの列車が完成!

中面の巻頭企画にも、南海全100駅にちなんだ特集「南海全駅100連結!」を掲載。

過去にNattsの取材にご協力いただいた取材先や、SNSを通じて応募してくれた読者など、計100人の地元の人たちに、各駅のおすすめスポットや駅にまつわる思い出などをご紹介いただきました。その土地土地で生活をおくるユーザーの生の声により、各駅にお住まいの読者や、ゆかりのある読者の共感をよぶことが狙いです。
また、全100駅すべての情報を見開きを駆使して一面に掲載することにより、「自分の住んでいる駅の隣は、どんな場所なんだろう」と、好奇心が広がっていく仕組みを盛りこみました。
(本誌のデジタルブックはこちらからご覧いただけます)

山根が岸里玉出出身なのでちゃっかり出演

担当者インタビュー「みんなで作りあげた20周年記念号になった」

今回の20周年記念号を担当するにあたり、定めていた表向きの目標は「Nattsという媒体の知名度、および読者の満足度の向上」でしたが、人間社内でこっそり設けていた裏テーマは、「人間の無茶な企画の実現を通してご担当者様に達成感を感じていただく」ことでした。そこで今回、ともにNatts20周年記念号を制作したご担当者さまにも、制作過程の感想や、制作物にまつわる思いを伺いました。

南海電気鉄道株式会社
グループ統括室広告宣伝部
羽生 奈央

「株式会社人間」に対する、最初の印象を教えてください

最初の印象がみさき公園の「親子水入らず」のポスターだったので、自分たち(社内)では思いつかないような面白い企画を考える会社だと思っていました。特に、若い方向けの話題性があるクリエイティブやコンテンツが得意な印象でした。とにかく、初めは奇抜なアイデアを提案されるイメージが強かったです。

その後の打合せなどで、印象は変わっていきましたか

奇抜なだけでなく、ストーリー性のあるものなど、幅広いアイデアをご提案いただけたのがありがたかったです。
当社は鉄道会社なので、あまり奇抜すぎるアイデアは採用できません。「きちんとストーリー性があって、当社での実現可能な面白い企画」という選択肢を与えてくださり、今回の企画について社内説明を行った際にもすぐにOKが出ました。幅広いご提案をいただける会社だと思います。

「Natts20周年特別号」に対して、社内/社外でどのような反響がありましたか

社内では特に、表紙の企画が好評でした。他部署の色々な方から、「面白い企画だった」「普段はNattsを読んでいない自分の子どもが、今月号は読んだと言っていた」「あるあるネタが面白い」などのお声をいただきました。

記念特別号に限らず、普段から一番Nattsの配布枚数が多いなんば駅2階の中央改札口が早い段階で在庫がなくなり、通常号よりもかなり多くの方に手にとっていただけた実感がわきました(すぐに、必死で色んな場所から在庫をかき集めました)。その他の駅でも、通常よりも在庫の減りが早いと言う報告を多数受けています。中面については、誌面出演者から「良い企画に参加させてもらえた」「このような企画を今後もおこなってほしい」というお声をいただいています。

そのような反響が生まれた理由は、なんだとお考えですか

駅のあるあるネタが、社内でも社外でも話題になりやすかったのでは、と思います。
表紙デザインのインパクトが大きかったことも、理由の一つかな。「最初、Nattsとわからなかった!」という声もありました。
また、当社のSNSでの告知や中面に出演してくださった方が口コミやSNSで話題にしてくださったことで情報が広がったと思います。

今回の制作を通して、印象に残った点を教えてください

とにかく「みんなで作りあげた20周年記念号になったなあ」という印象です。人間さんにアイデアをいただき、社内外の色々な人に協力してもらってネタや素材を集めて、やっとできた誌面なので、納品されたときはとても嬉しく、「たくさんの方に見てもらえると良いな」と思えました。

ただ、表紙に掲載した全駅300個のネタ集めや、中面の巻頭企画では100人分の素材集めと校正確認が膨大な量だったので、大変でした。体力的にも精神的にもかなりきつかったです。(笑) その分、発行されたときはものすごい達成感がありました! 人間さんにはたくさんご迷惑をおかけしましたが、柔軟なご対応をいただき本当に感謝しています。

今回のボツ企画

今回の案件では65企画を提案し、64企画がボツになりました。
そのボツ企画を抜粋してご紹介します。

超限定配布「黄金Natts」


【担当者からのコメント】
『早くNattsを手に入れたい』というお客様を困らせることになる可能性があるため。

ありがとう20周年 「Nattsからの感謝を車窓より」


【担当者からのコメント】
Nattsに対して感謝をしてくれる企業様を、自分たちで見つけてくるのは大変な上に、少しはずかしい…。

クレジット

Client: 南海電気鉄道株式会社
Creative Director: 山根シボル(人間)
Planner: 山根シボル(人間)、納谷ロマン
Designer: 松尾聡(人間)
Director: 佐々木航大(人間)
Producer: 花岡(人間)
Special thanks: 本誌に出演、あるあるネタを投稿いただいた皆さま
Printing: 大日本印刷株式会社